肺高血圧症の
診断・治療

肺高血圧症の診断・治療肺高血圧症の診断・治療

肺高血圧症って
どうやって診断するの?

肺高血圧症は、肺動脈圧が「平均25mmHg」以上であることで診断される病気で、患者さん個々に合わせた適切な治療を行うために、さまざまな検査によって、肺高血圧症のタイプや重症度を確認します。 ※肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)より

「動くと息が苦しい」「なんだか疲れやすくなった」など、肺高血圧症が疑われる症状があれば、まずは心エコー図検査や心電図、胸部レントゲン検査を行います。これらの検査により肺動脈や心臓の状態などをチェックし、肺高血圧症に特徴的な所見が現れていないかどうかを確認します。

胸部レントゲン検査

そこである程度、肺高血圧症である可能性が高いと判断されれば、診断を確定するために右心うしんカテーテル検査を実施します。これは、太もも、ひじ、手首などから肺動脈にカテーテルを入れる検査で、肺動脈圧を正確に測定することができます。
これは、肺高血圧症と診断するために欠かせない大切な検査で、一般的に、肺高血圧症の専門医のいる医療機関で受けることができます。そして、右心カテーテル検査により肺動脈圧が「平均25mmHg」以上であることが確認されれば、肺高血圧症と診断されます。

※肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)より

右心カテーテル検査
監修医より

肺高血圧症はふつうの高血圧とどう違うの?

いわゆる「高血圧」は、全身の動脈圧(血圧)が高い病気であるのに対し、肺高血圧は肺の動脈圧が高い病気です。全身の動脈圧は、収縮期120mmHg、拡張期80mmHg程度が正常ですが、肺動脈の場合はそれより低く、収縮期15~30mmHg、拡張期4~18mmHg、平均10~18mmHgが正常とされています。

肺高血圧症と診断されると、肺高血圧症の中でも、どのタイプに該当するかを確認するためにさらに検査を追加します。
強皮症に伴って発症する肺高血圧症では、「肺動脈性肺高血圧症」を生じることが多いですが、他のタイプの肺高血圧症を生じたり、これらがいくつか重なり合ったりすることもあります(強皮症でどうして肺高血圧症になるの?)。さらに、自覚症状の程度に応じて重症度の確認も行います。

肺高血圧症の重症度 症状
I度 肺高血圧症の重症度I度 普段の動作では呼吸困難や疲労、胸の痛みや失神などが生じない。
II度 肺高血圧症の重症度II度 安静にしていれば自覚症状がない。
普段の動作で呼吸困難や疲労、胸の痛みや失神などが起こる。
III度 肺高血圧症の重症度III度 安静にしていれば自覚症状がない。
軽い動作で呼吸困難や疲労、胸の痛みや失神などが起こる。
IV度 肺高血圧症の重症度IV度 安静にしていても呼吸困難や疲労がみられる。
どんな動作でも自覚症状が強くなる。
監修医より

なぜくわしい検査が必要なの?

肺高血圧症と診断するため、さらに肺高血圧症のタイプを確認するため、医療機関ではさまざまな検査を行います。これは、ひとくちに肺高血圧症といっても、患者さんごとにタイプや重症度が異なり、治療法も変わってくるためです。

肺高血圧症って
どうやって治療するの?

昔に比べると、肺高血圧症の治療は進歩しており、分類や重症度などを考慮して患者さんに合わせた治療を選択することが可能となりました。
適切な治療を受けるためにも、気になることがあればなるべく早く医師に相談し、肺高血圧症の診断を受けることが重要です。

治療の目的は、肺高血圧症の進行を抑えることです。以前は使用できる薬剤も限られていましたが、最近は治療法の開発が進み、患者さんの症状に応じて使い分けることなども可能となっています。

強皮症に対する治療に加え、肺高血圧症に対する治療を追加する(下図)という考え方になります。

強皮症と肺高血圧症の治療

強皮症でどうして肺高血圧症になるの?)で述べたように、強皮症では左心性心疾患に伴う肺高血圧症や肺疾患に伴う肺高血圧症などを合併する場合があり、これらに対しては、主にそれぞれの原因に対する治療を行います。
ここでは、強皮症に伴って発症する肺高血圧症のうち、「肺動脈性肺高血圧症」の治療について紹介します。
肺動脈性肺高血圧症の治療の基本は、肺の血管を広げる薬(肺血管拡張薬はいけっかんかくちょうやく)です。肺血管拡張薬は、その作用の仕方により「プロスタサイクリン経路」「エンドセリン経路」「一酸化窒素いっさんかちっそ(NO)経路」の3系統に大別され、それぞれに複数の薬剤があります。
これらの薬剤の中から、患者さんの症状に応じて、使い分けをされたり、組み合わせて使われたりします。
また、「プロスタサイクリン経路」の薬剤は、持続点滴注射、持続皮下注射、吸入、内服などさまざまな投与経路があるのが特徴です。
詳しくは(肺高血圧症治療サポート)を参照してください。

内服と持続点滴注射
監修医より

生活ではどんな点に気をつければいいの?

軽症の場合はとくに注意は必要ありませんが、進行している場合は肺や心臓に負担をかけない配慮が必要です。禁煙や節酒を心がけ、医師に相談して水分や塩分の摂取量の制限を行います。また、排便時にいきまないよう便通を整える、熱湯や長時間の入浴は控えるなど、負担を避ける工夫を医師に相談するとよいでしょう。

ほかにも、肺高血圧症の症状をやわらげるため、患者さんの症状に応じて利尿剤(体のむくみをとるため尿の量を増やす)を用いたり、在宅酸素療法を行ったりする場合などがあります。また、重症な場合には肺移植を検討する場合もあります。

在宅酸素療法

強皮症の患者さんが肺高血圧症を発症すると、一般的には、強皮症と肺高血圧症のそれぞれの専門医が協力しながら患者さんを診ていくことになりますので、こまめな通院や検査が必要となりますが、いわば2人主治医の心強い体制で治療を行うことで症状の悪化をくいとめ、以前となるべく変わらない生活をめざしていきましょう。

以前となるべく変わらない生活をめざしていきましょう