DX推進に向けた取り組み

近年のデジタル技術発展により、医療を取り巻く環境は大きく変化しています。急激な環境変化に対応し、「Patient Centricity」にもとづいた事業活動を推進するためには、デジタル技術を「手段」として効果的に活用できる仕組みと組織づくりが重要となります。
当社では、2020年に情報共有基盤を再整備するとともに、デジタル活用を企画推進する専門組織を情報システム部内の課として新設しました。2021年には全社DX推進プロジェクトを発足し、デジタルビジョンおよびデジタル戦略の策定を進め、対外的に開示しました。また、同年秋には、ここまでの取り組みを整理して経済産業省に申請し、翌2022年3月に「DX認定」を取得しました。同年4月には、情報システム部と並列する形でDX推進部、データインテリジェンス部の2部を新設し、これら3部門を統括するDX統括部を新設しました。さらに、経営陣の強いコミットメントを引き出すために、社長を委員長、業務執行取締役をメンバーとする「デジタル変革推進委員会」を新たに立ち上げました。また、DXを推進するための人財育成にも注力し、これについても、全社員が取り組むべきボトムアッププログラムと、選抜メンバーによるスペシャリスト育成プログラムの二本立てで進めています。なお、2022年10月には、産業競争力強化法に基づく「事業適応計画(情報技術事業適応)」※※の認定を取得しました。

※ DX認定制度とは、2020年5月に施行された「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」に基づき、企業の経営ビジョン、戦略、組織づくりなどの認定基準を満たす取り組みを行うなど、DX推進の準備が整っていると認められる企業を国が認定する制度

※※ 事業環境の変化を踏まえ、事業者全体で組織的な戦略に基づき、前向きな未来投資を通じた事業変革を実行し、産業競争力の強化を図る取り組み(=事業適応)を支援すべく、「事業適応計画」の認定スキームを創設し、認定を受けた事業適応計画に従って行う取り組みを後押しする制度

デジタルビジョン

デジタルビジョン

デジタル技術とデータを活用し、ヘルスケア分野で独自性の高い製品やサービスを創り、スマイルあふれる世界を目指します

デジタル戦略

戦略1 Digital for Innovation 世界の人々へ、より早くより良い製品やサービスを提供します
戦略2 Digital for Operation 経営基盤を強化し、効率化した業務リソースを創造領域にシフトします
戦略3 Digital for Adaptation デジタル時代に適した組織づくりや人財育成を推進します
DX認定ロゴ

デジタルの力でウェルビーイングの実現を目指す

人事・総務・リスク・コンプライアンス・DX担当取締役 高谷尚志
人事・総務・リスク・コンプライアンス・DX担当
取締役 高谷尚志

生成AIが急速にビジネス現場に普及しはじめました。当社もクラウド型のChatGPTを2023年9月に導入しました。こうした動きに対して、AIは仕事を奪うと危惧する声もあります。確かに、ヒトが行うべき作業は大きく変化する可能性はありますが、あくまでもAIは仕事を代替するのではなく補完するのであり、ヒトとAIが協働して、より効率的に業務を推進する世界が実現するのだと思います。デジタル技術やAIをうまく活用することにより、ヒトはより創造的な業務に向かい、仕事からの喜びは増大し、業務に伴うストレスは軽減されます。私は、デジタル活用を本格化させることで単なる生産性向上ではなく、社員のウェルビーイング向上にも貢献したいと考えています。

全社DX推進体制およびDX推進活動

当社では、二つのアプローチから全社的なDX推進を加速させています。一つは、経営陣が主導し、経営課題をDXで解決するトップダウン型の活動。もう一つは、現場主導で業務課題を解決するボトムアップ型の活動です。トップダウン型では、業務執行取締役を委員(委員長は社長)とする「デジタル変革推進委員会」を設置し、経営に資する重要な「DXテーマ」を決定しました。取締役自身がプロジェクトオーナーとなり各テーマの具現化を推進しています。ボトムアップ型の活動は、リーダーシップ、ITスキル、データ解析力などに強みを持つメンバーからなる「DXチーム」を業務執行取締役単位で編成し、業務部門における課題を可視化するとともに、全DXチームのメンバーが参加する全体会議では、それら活動実績の共有や課題解決に向けたアイデアを相互に出し合っています。
また、新たなボトムアップ型の活動として、アイデア公募型企画「DISチャレンジ2022」を開始しました。DX推進に興味のある社員を公募で集め、DXについての動画学習プログラムを受講した上で、個々人がDXアイデアを企画・提案します。評価が高いDXアイデアについては、プロジェクト化してPoC※※の実施および業務への実装を進めています。なお、いずれの活動についてもDX統括部が事務局を担い、プロジェクトマネジメントを行っています。

※ DISチャレンジ2022:「Digital Ideas for Smiles」の略、DXアイデアでスマイルを作るチャレンジ企画

※※ PoC:「Proof of Concept」の略、概念実証・効果検証

全社DX推進体制およびDX推進活動 図

DX人財育成戦略

当社では、「全社員のIT/DXリテラシー向上施策」と「選抜型DX人財育成プログラム」の2本柱でDX人財育成に注力しています。
「全社員のIT/DXリテラシー向上施策」では、ITパスポートをはじめ、G検定、情報セキュリティマネジメント、マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)などの各種公的資格取得のサポート(約320人参加、2022年度)を実施しているほか、社内外の多彩な講師による社内Webinarの開催(12回開催、延べ参加者数 約1,500人、2022年度)、社内ポータルサイトへのIT/DX関連情報の発信を行っています。
「選抜型DX人財育成プログラム」では、DXを推進するために重要な3つのスキル「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」に関して、それぞれ受講生を募集・選出し、約10ヵ月の実践型研修プログラムを実施しています(19人参加、2022年度)。各研修では卒業制作として、習得したスキルを活用した業務課題解決プログラムの制作や、デザイン思考を用いた新規DXビジネス企画の立案などを行います。また、研修修了者は、DXテーマ推進メンバーとして活躍してもらうほか、社内Webinarの講師や次期研修生のサポートなど、DX人財育成にも貢献しています。
2023年4月からは、全社的な人財育成プログラムとして新たに整備した「NSアカデミー」内のプログラムとして実施しています。

【図1】デジタル人財育成
全社員IT/DXリテラシー向上施策
社内Webinar(33回開催、延べ参加者数 約3,950人)
Webスキル向上セミナー(7回開催)
社内デジタル情報誌発行(社内ポータル)(毎月1回程度発行、約43刊発行)
デジタル月間・日本新薬グループデジタルの日(10月実施)
ITパスポートなど資格取得推進プログラム(延べ参加者数 約800人)
リバース・メンタリング(3回開催、延べ参加者数 8ペア16名)
※(  )内は2023年3月までの累計実績
選抜型DX人財育成プログラム
データサイエンティスト育成教育
ジェネラリスト育成教育
データエンジニア育成教育
※ 5~7名程度の集合研修

DX取り組み事例

【事例1】
デジタルソリューションの利活用

デジタルソリューションの利活用

全社員が利用するデジタルソリューションとして、2020年度から「いつでも、どこでも、だれとでもつながる」をテーマとして情報共有基盤を構築し、Microsoft 365やTeamsの導入に加え、業務用iPhoneの全社員への配布と固定電話廃止、クラウドのファイル共有サービスBoxの導入を実施しました。これらの基盤構築により、テレワークでもオフィス勤務と遜色ない業務遂行が可能となり、コロナ禍においても生産性を落とすことなく事業活動を継続することができました。営業部門では、デジタルとリアルを組み合わせた営業戦略への対応、医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインに則った情報提供活動を行うために、2022年度に新たな営業支援システムを導入、2023年度にはデジタル業務の拡充とさらなる強化を目的にデジタルソリューション部を新設しました。創薬研究部門では、医療ビッグデータやリアルワールドデータが活用できる環境の整備を進めており、新たなアプローチによる医薬品創出や、医薬品開発の抜本的な生産性向上を目指しています。

【事例2】デジタル技術の民主化

RPA 実績グラフ

2022年度には誰もがAIを利用できる環境を実現するため、機械学習自動化プラットフォームを全社導入しました。製薬業界では化合物の活性予測を活用した候補化合物の絞り込み、製造における不良品発生予測、医薬品の売上予測、営業活動の施策立案など、バリューチェーンのさまざまな部分でAI活用が進められています。当社でも機械学習自動化プラットフォームを活用し、抜本的な業務効率化および新たな価値創造に取り組んでいます。
2019年度から本格導入を始めたRPAによる定型業務の自動化は、部門や業務を問わずグループ会社を含めて導入展開しています。2022年度末時点で70の部門に導入され、累計で約7.0万時間の業務の効率化を実現し、創造的な業務へのシフトを進めました。
また、各部門で開発されたRPAロボットの社内コンテスト「RPAロボットコレクション」を開催し、RPA開発者のモチベーション向上および全社員へのRPAのさらなる周知を進めています。

「RPAロボットコレクション」優勝者
「RPAロボットコレクション」優勝者
  • 動画制作:リコージャパン株式会社

【事例3】「日本新薬グループデジタルの日」

デジタル庁が定めた「デジタルの日」の趣旨に賛同し、2021年から「日本新薬グループ デジタルの日」を実施しています。2022年は「ふれよう!#デジタルのチカラ」をテーマに、10月3日(月)~10月27日(木)を「デジタル月間」として、VR(Virtual Reality)体験などデジタルに触れる機会を設けました。また、RPA、機械学習自動化プラットフォーム、BIツールなどの体験会、IT相談会を開催し、社員が自身の業務へのデジタル導入やデジタル活用を考える機会としました。また、最終日の10月27日(木)を「デジタルの日」とし、BCP(事業継続計画)の観点から、出社できなくても事業が遂行できるよう全社員にテレワークを推奨しました。業務執行取締役についても、自宅から業務用iPhoneを用いた模擬オンライン災害対策本部会議を開催したほか、メタバース上のクイズ大会、社長参加のパネルディスカッションなど、多数のイベントを開催し、延べ1,500人以上の社員が参加しました。グランドフィナーレでは、社長が「全社一丸でDXを推進しましょう!」とメッセージを発信し、盛況のうちに閉幕しました。

※ BIツール:Business Intelligenceの略、蓄積されたデータを分析および可視化するためのツール

デジタル月間 -デジタル体験会-

RPA体験
RPA体験
VR体験
VR体験
メタバース空間体験
メタバース空間体験
フィナーレイベントでは、シンヤくんのアバターが約1カ月のイベントを振り返りました。
フィナーレイベントでは、
シンヤくんのアバターが約1カ月のイベントを振り返りました。

DXは「目的」ではなく「手段」である

DXは業務変革や生産性向上、新規ビジネス創出などを行うための「手段」の1つであり、DX自体が「目的」ではありません。自身の担当業務や業務プロセスに真摯に向き合い、改善、改革の様々なアプローチを検討することが本筋であり出発点です。一方、DXに関する知見がなければ、改善、改革の発想は浅薄になってしまいます。全社員がDXの本質を理解し、手段としてデジタルを使いこなすことができれば、知識の共有が新たな価値を創造し、持続的な成長が実現できることでしょう。私たちは、そのような会社を目指し、全社員をDX人財として育成するとともに、全社の風土変革も同時に推進していきます。