TCFD提言に基づく情報開示

日本新薬グループは、2021年12月、TCFD※1の提言への賛同を表明しました。リスクマネジメントの観点からすでに特定しているリスクへの取り組みに加え、TCFD提言の枠組みに沿って、気候変動に関するリスクと機会についてシナリオ分析を行いました。認められたリスクと機会に対する具体的な取り組みについては今後も継続して検討するとともに、関連する情報開示の充実を進めてまいります。

TCFDロゴ
  • ※1 TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は金融安定理事会(FSB)が気候関連の情報開示および金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、2015年に設立した気候関連財務情報開示タスクフォースです。

ガバナンス

日本新薬グループはより積極的にサステナビリティの推進を図るため、社長が委員長を務めるサステナビリティ委員会(年2回開催)にて、グループ全体のサステナビリティに関する重要事項についての議論・審議・決定をしています。気候変動対策をマテリアリティの1つとして特定し、評価・管理を行っています。また、サステナビリティ推進に関する活動内容や進捗状況については、半期に1度、サステナビリティ委員会において、その内容のレビューを行っています。
気候関連課題への取り組みに対する責任者として、経営企画・サステナビリティ担当取締役を選任しています。本取締役は環境委員会(年4回開催)の委員長を務め、環境委員会は取締役会が定めた当社グループの環境基本方針の実践を目的として、環境保全に関する方針の立案や環境保全に向けた取り組みなどを推進するとともに、年間のCO2排出削減目標など環境保全活動の進捗についても確認を行っています。また、環境委員会やサステナビリティ委員会での検討結果は、年複数回取締役会にて報告・確認し、監督しています。

名称 サステナビリティ委員会 環境委員会
役割
  • ・日本新薬グループサステナビリティ基本方針の決定
  • ・日本新薬グループ全体のサステナビリティに関する重要事項の議論・審議・決定
  • ・マテリアリティ全体の特定、評価、管理(気候変動関連含む)
  • ・日本新薬グループ環境基本方針および環境自主目標の策定および統括
  • ・環境保全に関する具体的な方針の立案
  • ・環境課題への取り組みの推進および進捗管理
構成
  • 委員長:社長
  • 委員:社内取締役
  • 事務局:サステナビリティ推進部
  • 委員長:経営企画・サステナビリティ担当取締役
  • 委員:サステナビリティ推進部長、総務部長、東部創薬研究所長、小田原総合製剤工場長
  • 事務局:サステナビリティ推進部
開催頻度 2回/年 4回/年
気候関連課題への取り組み 体制図

戦略

シナリオ分析

日本新薬グループでは、気候変動に伴うリスクと機会は、自社の事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、下記のプロセスを通じて気候変動に伴うリスクと機会を特定し、その重要性を評価しました。
気候変動に関するリスクと機会については、1.5℃シナリオおよび4℃シナリオを用いて分析、評価を行いました。
はじめに、気候変動に伴うリスクと機会を網羅的に抽出し、次に抽出した気候変動に伴うリスクと機会について、「医薬品」「機能食品」の2つの事業との関連性を整理しました。最後に「自社にとっての影響度」および「発生可能性」の2つの評価基準に基づき、その重要性を評価しました。

1.5℃シナリオ

炭素税の導入を含む規制強化によるコストの増加が見込まれるほか、原材料等の価格が上昇するリスクが想定されます。当社は、2030年度に6,803t-CO2(基準年度である2020年度比42%減)を掲げており、脱炭素化の取り組みを推進します。

4℃シナリオ

小田原総合製剤工場では、気候関連の災害が発生し操業が停止した場合、約4.6ヵ月分の在庫を保有しているため財務的な影響は受けないことが分析されました。原材料の安定的な確保のため、多角的な調達先の確保や備蓄機能の強化を行い、サプライチェーン全体のリスクを最小限に抑える取り組みを行っています。また、気象災害を含むBCP対策や災害対策関連投資の促進などを行います。

気候変動シナリオの選択

1.5℃シナリオはSSP1-1.9、4℃シナリオはSSP5-8.5を用いました。

シナリオ 参考値 詳細
1.5℃シナリオ SSP1-1.9
IEA NZE2050
温暖化を「わずかなオーバーシュートの後」2100年に1850-1900年比で約1.5℃に抑制し、今世紀半ば頃にCO2を正味ゼロにすることを想定している。
4℃シナリオ SSP5-8.5 追加的な気候政策を実施しない場合の高水準の参照シナリオ。SSP5-8.5のような高い排出量は、化石燃料を使用するSSP5の社会経済発展経路においてのみ達成される。
シナリオ分析グラフ
短期,2021-2040 中期,2041-2060 長期,2081-2100
シナリオ 最良の
推定値(℃)
可能性が非常に
高い範囲(℃)
最良の
推定値(℃)
可能性が非常に
高い範囲(℃)
最良の
推定値(℃)
可能性が非常に
高い範囲(℃)
SSP1-1.9 1.5 1.2~1.7 1.6 1.2~2.0 1.4 1.0~1.8
SSP1-2.6 1.5 1.2~1.8 1.7 1.3~2.2 1.8 1.3~2.4
SSP2-4.5 1.5 1.2~1.8 2.0 1.6~2.5 2.7 2.1~3.5
SSP3-7.0 1.5 1.2~1.8 2.1 1.2~2.8 3.6 2.8~4.6
SSP5-8.5 1.6 1.2~1.9 2.4 1.3~1.9 4.4 3.3~5.7

特定されたリスク / 機会と施策

区分 日本新薬への影響 想定されるリスク・機会の施策詳細 指標 財務影響 時間
短期 中期 長期
~2025 2026~2030 2031~
リスク 移行リスク 政策と法 炭素税や省エネ法の強化などにより、エネルギーコスト及び調達品の価格が上昇するリスク
  • ・温室効果ガス排出削減投資促進のためのインターナルカーボンプライス制度の導入
  • ・省エネ・再エネ施策の積極展開
  • ・グループ内啓発や気運醸成の取り組み
  • ・環境委員会での環境規制動向のモニタリングを実施

2030年度に222百万円、2050年に450百万円
2030年の炭素税を140$/t-CO2と仮定して当社の2022 年Scope 1+2 目標値から推計。
2050年の炭素税を250$/t-CO2と仮定して当社の2022 年Scope 1+2 目標値から推計。

費用の増加
グローバルにおける環境規制への対応の遅れ
  • ・環境委員会での、規制動向の先行調査と早期対応の実施
市場 原材料の需要増加による調達品の市場価格上昇(医薬品)
調達品の市場価格上昇に伴う製品の値上げにより、需要が減少するリスク(機能食品)
  • ・サプライヤーにおける脱炭素活動を積極的に支援し、調達コスト上昇のリスクに対処
売上の減少
原材料等の資源枯渇による工場操業・事業活動の停止
  • ・多角的な調達先の確保
  • ・備蓄機能の強化
評判 気候変動対策への遅れによる株価及び資金調達に及ぼす悪影響
  • ・TCFD提言に沿った情報開示と取り組みの推進
  • ・ESG評価による企業価値の向上
物理リスク 急性リスク 局地的な豪雨や大型の台風発生の増加により、原材料調達および製品の出荷物流を含むサプライチェーンが寸断されるリスクが増加
  • ・プロセスの自動化
  • ・多角的な調達先の確保
  • ・サプライヤーとの協働強化
  • ・製造委託先等への工場査察、原料および製品に関する各種情報の整理、製品規格や試験方法の見直しなどにより工場の生産および品質管理体制を強化し、製品リスクの低減につなげる。
売上の減少
  • ・異常気象、気象災害による施設の損傷頻度や修復費用の増加
  • ・自社及び共同研究企業を含めた関連施設の損傷による事業活動の中断
  • ・災害時の具体的な行動指針の策定
売上の減少
慢性リスク 海面上昇の影響により、工場等の拠点を移転させる必要が発生するリスク
  • ・災害対策関連投資の促進
降雨パターンの変化による水資源の枯渇・取水制限(生産能力減少による収益減)
  • ・既存拠点の水供給の安全性と渇水及び異常気象に対するリスク評価
気候変動による原材料調達不全
  • ・多角的な調達先の確保
機会 市場 気候変動が進んだ場合、食品の保存・品質維持の重要性が増しており、我が社の品質安定保存剤が需要を一段と高めることが期待されます。
  • ・食品の風味を保ちつつ保存性を高める品質安定保存剤の開発の取り組みにより食品の品質維持向上に貢献し、食品廃棄量削減につなげる。
売上の増加
資源効率・
エネルギー
省エネ、水利用量の削減、廃棄物処理などを含めた様々な資源効率の向上による、製造コストの削減
  • ・工場におけるエネルギーの最適化を推進、IoT活用による省エネ生産、工程の整備
費用の減少
製造・流通プロセスの効率化
  • ・物流負荷の少ない原材料の使用検討
再生可能エネルギーの導入、炭素税の負担軽減によるコスト競争力確保
  • ・省エネ技術の更なる開発推進
レジリエンス 計画的な対策の実施により、物理リスク被害を最小限に抑制
  • ・耐震補強等の対策の実施
  • ・備蓄機能強化等の長期インフラ断絶への備え
当社の気候変動への取り組みが顧客からの信頼獲得、従業員の定着、人財採用での評価向上、ESG投資家からの評価向上等の企業価値創出に寄与
  • ・TCFD提言に沿った情報開示と取り組みの推進
  • ・SBT認証の取得、CDP対応の推進
関連するセグメントの営業利益に与える影響額が30%以上の場合
関連するセグメントの営業利益に与える影響額が15%超30%以下の場合
関連するセグメントの営業利益に与える影響額が0%超15%以下の場合

2050年カーボンニュートラルの実現に向け、「環境基本方針」のもと、環境保全活動の継続的な改善(省エネルギー、CO2排出量の削減)に取り組んでいます。
脱炭素の取り組みとして太陽光発電設備設置をはじめとした再生可能エネルギー由来の電力への切り替えを拡大しています。 また、営業車両のハイブリッド車両への切り替えを進めており、工場および研究設備の更新時には温室効果ガス排出量削減への貢献を評価項目の一つとしています。
サプライチェーン全体を対象とするScope3への対応は欠かせない課題と認識しており、脱炭素化の取り組みをサプライヤーと協働して進めてまいります。
また当社グループは、低炭素経済への移行を機会と捉え、化石燃料由来のエネルギーコスト削減および機能食品分野等による競争力の強化を認識し取り組んでまいります。

リスク管理

日本新薬グループでは「リスクマネジメント基本規程」を定め、人事・総務・リスク・コンプライアンス・DX担当取締役をリスクマネジメント統括責任者として、リスクマネジメントを統括する専任部門を設置し、気候変動に関するリスクを含め、想定されるさまざまなリスクの洗い出しを行っています。
具体的には、事業活動において想定されるリスクを「ガバナンス」「戦略と計画」「経営インフラ」「業務運営」「サプライチェーン」「開示と報告」の6つに大きく分類したうえで、これをさらに小分類へと細分化し、例えば「CSR計画・環境保全の取組み(温室効果ガス等)」といった個別の具体的なリスク項目に整理するとともに、「自社にとっての影響度」と「発生可能性」の2軸からなるリスクマトリクスを用いてリスクの重要度を「高」「中」「低」に分類しています。そして、各責任部門において、当該リスクが顕在化しないための予防策およびリスクが顕在化した場合の対応策を策定し、リスク管理シートとしてまとめ、それぞれのリスクに適切に対応できるように取り組んでいます。
さらに毎年これらリスクの中から、グループ全体や各部門において重要度の高い活動テーマを選定し、1年間のアクションプランを通じてその予防策の強化などに取り組んでいます。取り組みの結果は、年度末のリスク・コンプライアンス委員会で活動報告を行い、取締役会に報告され、次年度以降の活動の改善につなげています。

2024年度活動テーマ リスクマネジメント目標
自然災害(地震・噴火・津波・台風・風災・落雷など)、火災・爆発
  • ・事前予測できる特別警報クラスの自然災害に対して、国・行政発表を基にした注意喚起や対策、啓発を実施する。
  • ・火災・爆発などの有事の際に、初動対応が行えるよう教育、消火器訓練・避難訓練を実施する。
小田原総合製剤工場における各種防災訓練の強化(4号棟追加対応)
  • ・各種災害発生時の初動対応マニュアルを作成する。
  • ・各種災害を想定した対応体制を整備し、訓練を実施する。
医薬製品供給不能リスク 当社の経営戦略において重要な製品の供給不能リスクを低減する。
機能食品原材料・製品等の安定調達 当社が取り扱う機能食品全品目に関して、需要と供給のバランスを計測し、適切な在庫管理を実施する。
化学物質の適正管理 化学物質保有量の削減、化学物質管理システム運用及び法改正への迅速かつ適切な対応により「化学物質の適正管理」を推進する。

指標と目標

日本新薬グループは、気候変動のリスクと機会を管理する指標として、パリ協定が定める目標に科学的に整合する温室効果ガスの排出削減目標「Science Based Targets」(以下SBT)基準の野心的な目標設定を行い、2020年度を基準に2030年度の温室効果ガス排出量(Scope1,2)42%削減を目標としました。また、サプライチェーンにおける温室効果ガス排出量(Scope3カテゴリ1)については、2020年度を基準に2030年度の温室効果ガス排出量25%削減を目標としました。これら当社の温室効果ガス排出削減目標は、2024年1月にSBTiから科学的根拠に基づく目標として認証されました。

SBT認定 温室効果ガス削減目標

Scope1+2 2030年度の温室効果ガス排出量を42%削減(2020年度基準)
Scope3(カテゴリ1) 2030年度の温室効果ガス排出量を25%削減(2020年度基準)

2022年のScope1,2は9.182t-CO2、基準年度である2020年比で14.4%削減となりました。Scope3カテゴリ1は188,834t-CO2、基準年度である2020年度比で15.2%の増加となりました。Scope3カテゴリ1算定方法は調達金額をもとに算定しておりますが、今後は削減に向けて、サプライヤーと協働した取り組みを進めてまいります。

CO2削減への取り組みは、カーボンニュートラルを見据えたロードマップを設定し、2021年より太陽光発電設備設置をはじめとした再生可能エネルギー由来の電力へ切り替えを開始し2022年には日本新薬グループ全体のCO2排出量(Scope2)から46%削減しました。今後も再生可能エネルギー由来の電力への切り替えを拡大してまいります。またサプライチェーンにおけるCO2削減についても、エンゲージメントの強化を推進しCO2排出量削減目標に取り組んでまいります。
気候関連の機会として、営業車両のハイブリッド車比率をKPIとして設定しており、2022年には営業車両のハイブリット車の割合は81.9%となっております。
また機能食品部門においては、食品廃棄物削減による需要から品質安定保存剤の拡大を見込んでおります。