前立腺がんについて
前立腺がんは高齢になり発生する代表的な男性特有のがんであり、わが国における前立腺がんの患者さんの数は、近年になり急速に増加しています。その最大の要因は高齢化ですが、それ以外にも生活習慣の欧米化が考えられます。特に、脂肪分の多い食事が前立腺がんの増加に密接に関係していると言われています。また、男性ホルモンの作用が前立腺がんの増殖にかかわっていると言われています。
症状と診断
前立腺がんの好発年齢は60歳代に始まり、高齢になるほど増加します。
この年齢層は前立腺肥大症の好発年齢と一致しており、前立腺肥大症の診断では常に前立腺がんの存在を念頭におかなければなりません。
前立腺肥大症と前立腺がんとを鑑別する方法としては、次のような検査があります。
- ①直腸診
- ②血清PSA値の測定
- ③前立腺針生検
- ④超音波検査
- ⑤CT
- ⑥MRI
- ⑦RI など
中でもPSA値の測定は信頼性が高く、前立腺がんの早期発見に大変有用です。
PSAは前立腺から産生される物質で、精液の凝固をおさえる作用をもっています。PSA値は前立腺がんだけに特有な検査値ではありませんが、血液中のPSAの数値が基準値(4ng/ml)をこえて10ng/mlまでの場合は20~30%に前立腺がんが発見され、10ng/ml以上になると60%以上に前立腺がんが発見されます。
確定診断には、超音波を用いて前立腺の位置を見定め、直腸より穿刺針を進め、前立腺の組織を一部採取して前立腺がん細胞の存在を確認します。そして病巣の広がり(局所進展、リンパ節転移、骨転移など)を調べるにはコンピューター断層撮影法(CT)、磁気共鳴画像診断法(MRI)、ラジオアイソトープ(RI)検査などが実施されます。中でもMRIは、前立腺がんの局在診断にも有用で、不要な前立腺針生検を避けるため参考にします。
治療
前立腺がんの治療法は、1)無治療経過観察 2)手術療法 3)放射線療法 4)内分泌療法(ホルモン療法)に大別され、患者さんの年齢、がんの進行度などにより選択されます。
無治療経過観察 | 定期的なPSA値の検査と追跡 | |
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局所的治療 | 手術療法 | 前立腺全摘除術 |
放射線療法 | ・外照射法 ・組織内照射法 |
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全身的治療 | 内分泌療法 (ホルモン療法) |
・精巣摘出術(除睾術) ・薬物療法(注射薬・内服薬) |
その他の治療 | 化学療法(抗がん剤による治療)など | |
治療法を決める重要な要素 | ・患者さんの年齢 ・全身の状態、合併症の有無 ・がんの進行度・タイプ(悪性度) ・患者さんの希望 |
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- 初期がん(限局がん)
- 前立腺肥大症などの手術のときに、偶然発見されるがんで肉眼では見えないほど小さいがんや、前立腺の内側にとどまっているがんです。
手術により前立腺を摘出する前立腺全摘除術か放射線療法による治療が中心になります。また、初期がんの中には治療を見合わせる無治療経過観察も選択されます。
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- 中期がん(局所浸潤がん)
- 前立腺の外側や、精のうにまで広がっているがんです。
内分泌療法または放射線療法と内分泌療法の併用が行われます。
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- 中期がんより進行しているがん(周囲臓器浸潤がんと転移がん)
- 精のう以外のまわりの臓器に広がっているがんで、骨盤内リンパ節や骨への転移がみられます。
内分泌療法を中心に行います。再発した場合には、化学療法を行います。
1)無治療経過観察(待機療法あるいは積極的PSA監視療法)
すぐに治療を行うのではなく、PSA値の推移をみながら、治療開始時期を決める治療方針です。
2)手術療法
近年、手術方法も大変進歩しており、これまでにみられた術後の合併症の頻度も少なくなってきています。手術療法は、従来より行われていた開腹術から、腹腔鏡下手術が広く行われるようになりました。昨今では、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RALP)が全国的に急速な普及がみられています。
ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RALP)
ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RALP)は、前立腺全摘除術を安全かつ高精度に行うものであり、2000年に米国で開発されました。日本でも2009年に行えるようになり、現在では健康保険の適応が認められています。
3)放射線療法
放射線療法には、体の外から放射線をあてる方法と、前立腺に放射線源を埋め込む方法(ブラキセラピー)があります。強度変調放射線治療(IMRT)では、専用のコンピューターを用い、がんに放射線を集中し、周囲の正常組織への照射を減らすため、副作用を増加させることなく、より強力な放射線をがんに照射することが可能です。
従来の放射線治療では、エックス線、ガンマ線、電子線が主に用いられていますが、近年「粒子線治療」が注目されており、陽子を加速する陽子線治療と原子核を加速する重粒子線治療があります。体の奥にあるがんにだけ放射線を集中させることができるので、がんに対して強力な治療が可能です。
4)内分泌療法
内分泌療法は、前立腺が男性ホルモンに依存している性質を考慮して、男性ホルモンの作用を除き、前立腺がん細胞の増殖をおさえる治療で前立腺がん治療の基本です。
精巣を残したままで男性ホルモンの産生をおさえる性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LH-RH)製剤が使用されています。現在、LH-RH製剤には、アゴニスト製剤(作動薬)とアンタゴニスト製剤(拮抗薬)の2種類があります。また、LH-RH製剤単独だけではなく、前立腺を取り巻く男性ホルモンの影響を完全に遮断する目的で、抗アンドロゲン薬も併せて使用する場合が多くあります。
これらの内分泌療法の効果は明らかで、80%以上のがんは非常に小さくなりますが、次第に内分泌療法の効果が低下し、5年以内には約半数以上で再びがんは大きくなり、全身への転移が少なくありません。今日、そのような再燃(再発)がんや転移がん発症の機序が次第に明らかになってきました。
再燃(再発)がんでは男性ホルモンが去勢レベルに達しても、少なからずホルモン感受性が残っていることが認められるため、「去勢抵抗性前立腺がん」の名称が一般的に用いられるようになりました。去勢抵抗性前立腺がんには、新規の抗アンドロゲン薬による内分泌療法や抗がん剤による化学療法が行われ、生存期間の延長とQOLの改善がみられています。
5)化学療法
全身療法であり、抗がん剤を用いてがん細胞を攻撃し、死滅させる治療法です。
一般にこの治療は、手術や放射線治療後の再発・転移がみられた場合や、内分泌療法が無効になった場合に行われます。
最後に、すべてのがんに共通して言えることですが、前立腺がんにおいても早期発見、早期治療が大切です。
