前立腺肥大症について

排尿の悩みの原因として高齢男性の場合、最も多いのが前立腺肥大症です。
これは前立腺の良性腫瘍であって生命に関わることはありませんが、高齢化とともに患者さんの数も増えてきました。
これまでは高齢者の排尿障害は「年のせいだ」とがまんする傾向にありましたが、最近では病気として認識され、さらに生活の質(QOL)を低下させることから、早期に治療を受けることが望ましく、治療により多くの患者さんが快適な生活を取り戻しています。

前立腺肥大症の患者さんの数

原因と症状

前立腺肥大症では多くの場合、排尿障害が現れてきます。このような症状の発生には3つのことが関係します。
1)排尿に関わる神経の調節がうまくできず、尿道をしめつけること。
2)肥大した前立腺自身によって尿道が狭くなること。尿道が圧迫され尿の出が悪くなってきます。ゴムホースを握りつぶした状態を想像してください。
3)尿道の圧迫が続いて膀胱に負担がかかることや、加齢による膀胱の劣化があります。この結果、膀胱の伸び縮みが悪くなり、残尿や頻尿がみられるようになります。
これらの原因で、尿が出にくくなるだけでなく、さまざまな排尿に関する症状(下部尿路症状とよばれます)が現れてきます。これらの症状は、高血糖、高血圧、肥満など生活習慣病との関係が深く、全身疾患の症状として理解されつつあります。
下部尿路症状は、尿が出にくい排尿(排出)症状、尿を十分ためられない蓄尿症状、そして排尿後の残尿感などの排尿後症状に大別されます。

診断

病歴や症状を聞き取る問診、超音波や検尿等の検査を含めて総合的に診断がされます。問診では国際前立腺症状スコア(IPSS)とQOLスコアという質問票が一般的に使用され、どのような治療を行うかの決定や、治療の効果を調べます。

国際前立腺症状スコア(IPSS)とQOLスコア

薬による治療

前立腺肥大症の病態は次の3つの要素から成ります。3つのうちどの要素が強いかが治療を選択する上で重要となってきます。

前立腺肥大症の3つの要素

前立腺肥大症の治療法には薬による治療と手術による治療があります。
重症例以外の多くは薬による治療により症状をおさえられる可能性が高いので、最初に薬による治療が行われます。
また、治療を行っている間は定期的に症状の確認を行いますが、前立腺がんの発生を確かめるために血清PSA値の測定を6~12ヵ月ごとに行うことが必要です。
治療に使用されている薬の中では、α受容体遮断薬(α遮断薬)やPDE5阻害薬が第一選択薬として推奨されていますが、5α還元酵素阻害薬の併用などが行われる場合もあります。また、古くから使用されている薬としては、植物製剤、漢方薬、抗アンドロゲン薬などがあります。

■治療薬のはたらき

  • α1遮断薬
    交感神経の異常な興奮をおさえることで、尿道や前立腺の筋肉の緊張を和らげて尿を出やすくします。
  • PDE5阻害薬
    α1遮断薬と同様に、尿道を広げ排尿をスムーズにすることに加え、骨盤内の血流を良くすることにより前立腺肥大症の全般的な症状を改善します。
  • 5α還元酵素阻害薬・抗アンドロゲン薬
    前立腺肥大症の発症と進行にかかわる男性ホルモンを抑制して、前立腺を小さくします。
  • 植物製剤
    抗炎症作用、抗酸化作用、抗菌作用などにより、前立腺の炎症や浮腫、うっ血などの症状を改善し、前立腺肥大症の自覚症状を改善します。

そのほか、過活動膀胱*(OAB)を伴う場合は上記の薬とOAB治療薬(抗コリン薬・β3刺激薬など)を併せて使用します。

*過活動膀胱:尿が十分にたまる前に、がまんできない強い尿意(尿意切迫感)が急に起こり、通常、頻尿や夜間頻尿を伴う症状。切迫性の尿失禁を伴うこともある。

手術による治療

前立腺肥大症の治療には薬による治療が多く行われていますが、期待した効果が得られない場合には手術が必要です。
手術としては、従来より一般的に行われている経尿道的前立腺切除術(TURP)の他に、ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)、グリーンライトレーザー前立腺蒸散術(PVP) などがあります。いずれも患者さんに負担の少ない低侵襲性の手術です。
これらの手術は、肥大した前立腺を切除することによって閉塞状態を取り除くことが目的です。皮膚を切ることがないので患者さんの苦痛はほとんどありません。術後の回復も早く、入院期間も短くすみます。

経尿道的前立腺切除術(TURP)

以上のように前立腺肥大症の治療の選択肢は多くあります。本人の症状や全身状態、前立腺の大きさ、薬の効果などを総合的に判断して最も良いと思われる方法を選ぶことができます。